ポルノグラインド(Pornogrind)とは、ゴアグラインド(Goregrind)やグラインドコア(Grindcore)周辺の音楽に、性、性器、性的行為、ポルノ、性的侮辱などを扱う曲名、ジャケット・イメージ、ステージネーム、サンプルといった表現を強く結びつけた極端音楽の一領域である。
最初に重要な点を言えば、ポルノグラインドをゴアグラインドから音だけで一律に区別できる、決定的な固有サウンドを定義するのは難しい。 ピッチシフトされた低音ボーカル、中速のグルーヴ、単純な反復リフなどはポルノグラインドで頻繁に聞かれるが、これらはゴアグラインドにも普通に存在する。そのためジャケットや曲名を隠し、音だけを聞いた場合には、ゴアグラインドとポルノグラインドを区別できない作品も多い。
では何が「ポルノ」なのか。その答えを最も分かりやすく示すのが、ポルノグラインド史の重要な基準点として扱われるドイツのGUTである。
GUTは1990年代前半から中盤にかけて、『Spermany’s Most Wanted』『Pussyfied / Assyfied』『Hyper-Intestinal Vulva Desecration』『Twat Enema』『Fistful of Sperm』などの露骨なリリース名を使用した。2017年のGUT本人へのインタビューでも、これらは初期ディスコグラフィーとして列挙されている。曲名にもSperminator、Intestinal Cumshot、Dead Girls Don’t Say No、Vagina Berserker、Pussy Grinder、Anal Sushiなどが並び、メンバー自身もOrganic Masturbator of 1000 Splatter Whores、Spermsoaked Consumer of Pussy Barbecue、Torturer of Lacerated and Satanic Titsといった性的なステージネームを名乗っていた。
つまり、ポルノグラインドの「ポルノ」は、必ずしも独自のギター奏法やリズムを意味しない。ゴアグラインドと共有する音楽的語彙に、性的な言葉、ジャケット・イメージ、キャラクター、サンプルなどを組み合わせて作品世界を作ることから理解すると、この曖昧なジャンルが分かりやすくなる。
ポルノグラインドの特徴を簡単に整理すると
ポルノグラインドの特徴は、「定義に近いもの」「頻出するが必須ではないもの」「ゴアグラインドとも共有するもの」の3段階に分けると理解しやすい。
| 種類 | 特徴 |
|---|---|
| 定義に近い特徴 | 性、性器、性的行為、ポルノ、性的侮辱などを扱う作品名・曲名・ジャケット・イメージ |
| 頻出する特徴 | 性的な音声サンプル、ピッチシフトされた低音ボーカル、中速グルーヴ、単純な反復リフ |
| ゴアグラインドとも共通 | ブラストビート、ガーグル、ダウンチューニング、短曲、ローファイな録音 |
したがって、「中速だからポルノグラインド」「ピッチシフターを使っているからポルノグラインド」という区別は成立しない。性的な主題やイメージが重要な識別要素となり、その周囲に特定の音楽的傾向が重なっていると考えた方が実態に近い。
ゴアグラインドとポルノグラインドの違い
両者の違いは、音よりも作品世界の主題に現れやすい。
| 項目 | ゴアグラインド | ポルノグラインド |
|---|---|---|
| 主な題材 | 病理、腐敗、死体、解剖、医療、ホラー | 性、性器、性的行為、ポルノ、性的侮辱 |
| ジャケット | 病理写真、死体、腐敗、医療的イメージなど | 性的な身体、ポルノ的・フェティッシュなイメージなど |
| 曲名 | 医学、病理、腐敗、死体など | 性器、精液、性行為、性的暴力など |
| サンプル | ホラー映画、会話、医療など | 性的な音声などが使われる場合がある |
| ボーカル | ガーグル、グロウル、加工声 | 同様。低いピッチシフト声が目立つ場合がある |
| リズム | ブラスト〜中速まで幅広い | 同様。グルーヴや中速反復を強調するバンドもある |
| 音だけで判別 | 難しい場合がある | 難しい場合がある |
ゴアグラインドでは、人間の身体が血液、肉、臓器、腐敗、病気、死体といった方向へ分解される。ポルノグラインドでは、その身体がさらに性器、性行為、性的欲望、性的侮辱などによって意味づけられる。
ただし両者は完全には分離していない。ネクロフィリア、スカトロ、性的暴力など、ゴアと性の境界に位置する題材もある。そのため、ポルノグラインドを理解するときは、「どんな音か」だけではなく「何を、どのような言葉とイメージで提示しているか」まで見る必要がある。
ゴアグラインドそのものについては、「ゴアグラインドとは?」で詳しく解説している。
GUTのどこが「ポルノ」だったのか
ここを具体的に見ると、ポルノグラインドという名称の意味が最も分かりやすい。
1991年のGUTは、まだゴアグラインドとの連続性が強い
GUTは1991年にデモ『Drowning in Female Excrements(女性の排泄物に溺れる)』を録音した。同作のトラックリストにはBathed in Virgin Blood(処女の血を浴びて)、Art of Butchery(解体の技法)、Confessions of a Necrophile(死体性愛者の告白)、Morbid Pathology(病的病理学)、Drowned in Blood(血に溺れる)などが並んでいる。
この段階では性が作品全体を支配する主題にはなっておらず、血、解体、病理、死体といったゴア/デスメタル的な語彙の方が目立つ。1991年にGUTが突然「ポルノだけを扱う新しい音楽」を完成させたと考えるのは正確ではない。
GUTはゴア/グラインドの身体表現から出発し、その後数年間で性的な言葉とイメージを急速に増やしていった。
1992〜1995年|リリース名そのものが性的になっていく
変化は作品タイトルを見ると分かりやすい。
| 年 | リリース | タイトルの意味・特徴 |
|---|---|---|
| 1992 | 『Spermany’s Most Wanted』 | GermanyをSpermanyに置き換えたと読める性的な語呂合わせ |
| 1994 | 『Hyper-Intestinal Vulva Desecration』 | 腸・外陰部・冒涜を組み合わせた直訳困難な造語 |
| 1994 | Gore Beyond Necropsyとのsplit『Twat Enema』 | 便宜的に訳せば「女性器浣腸」 |
| 1994 | Brain Damageとのsplit『Fistful of Sperm』 | 「一握りの精液」 |
| 1995 | 『Pussyfied / Assyfied』 | pussy、assを変形させた性的な造語 |
ここで示した日本語は、英語の意味を理解するための便宜的な直訳である。GUTのタイトルには通常の英語として自然に翻訳できない造語や駄洒落も多いため、日本語訳を正式名称のように考えるべきではない。
重要なのは、GUTが単に歌詞の中で性的な題材を使っただけではないことである。レコードを手に取った時点で性的な言葉が目に入るように、作品タイトルそのものがバンドのキャラクターを構成していた。
曲名にも性器・精液・性行為が大量に登場する
曲名はさらに露骨だ。GUT公式Bandcampの『The Singles Collection』には、Intestinal Cumshot(腸内射精)、Dead Girls Don’t Say No(死んだ女は拒まない)、Vagina Berserker(膣の狂戦士)、Pussy Grinder(女性器グラインダー)、Anal Sushi(肛門寿司)などのタイトルが存在する。
「ポルノ」といっても官能的なエロティシズムを表現しているわけではない。性器、精液、死体、排泄、暴力、侮辱、悪趣味な駄洒落が意図的に混ぜられている。ポルノグラインドの「porn」は、一般的な意味での性的興奮を目的とするポルノとは異なり、性的なものをゴアや排泄物と同じように、ショックや悪趣味の材料として極端化するところに特徴がある。
1995年『Odour of Torture』で性的な言葉が前面に出る
1995年の1stアルバム『Odour of Torture』では、こうした世界観が顕著になる。収録曲にはPerpetual Sperm Injection(永久精液注入)、Dildo Delirium(ディルド錯乱)、Triple Penetration(三重挿入)、Sperm Poisoning(精液中毒)、Cock Contest(ペニス競争)、Anal Sushi(肛門寿司)などのタイトルが並んでいる。
初期デモに目立っていた病理や死体の語彙と比べると、この段階では性器、精液、性行為などが作品世界の大きな部分を占めるようになっている。GUTが後世にポルノグラインドの基準点として扱われる理由は、この変化を見ると理解しやすい。
ジャケットやパッケージにも性的なイメージを持ち込んだ
GUTの性的表現は曲名だけではない。Michael Skeechの博士論文『The Biology of Heavy Metal: Evolutionary Links Between Science and Culture』(University of Salford, 2022)は、Pornogrindのイメージを論じる中で『Odour of Torture』を具体例として取り上げ、女性が自身の乳房に針を刺しているカバーと、性的・暴力的な曲名が作品の主題を補強していると分析している。
さらに1995年の『Pussyfied / Assyfied』の7インチには、密封されたコンドームが付属していたことも記録されている。
これは象徴的である。性的な主題は音源の中だけではなく、ジャケット、パッケージ、レコードを所有する体験にまで拡張されていたのである。
メンバー名まで性的なキャラクターになっていた
GUTの場合、性的な表現は作品名や曲名だけではなく、メンバー自身の名義にも及んでいた。GUTのメンバー履歴では、Organic Masturbator of 1000 Splatter Whores、Spermsoaked Consumer of Pussy Barbecue、Torturer of Lacerated and Satanic Tits、Cadaveric Vaginaripper of Putrefying Orgasmsといった名義が確認できる。
Organic Masturbator of 1000 Splatter Whoresは、便宜的に直訳すれば「1000人のスプラッター娼婦の有機的自慰者」。Spermsoaked Consumer of Pussy Barbecueは「精液まみれの女性器バーベキュー消費者」、Torturer of Lacerated and Satanic Titsは「切り裂かれた悪魔的乳房の拷問者」といった意味になる。Cadaveric Vaginaripper of Putrefying Orgasmsという、死体、性器、腐敗、オーガズムを一つに混ぜた名義も確認できる。性、ゴア、暴力、悪趣味を混ぜたキャラクター設定がメンバー本人の名義にまで入り込んでいた。
GUTの「ポルノ」は固有のリフやリズムだけには存在しない
ここまで見ると、GUTがポルノグラインドと呼ばれる理由がかなり明確になる。その中心にあるのは、性的なリリース名、性器や性行為を扱う曲名、性的なステージネーム、性と身体損傷を結びつけたジャケット、コンドームを付属させるようなパッケージ、そしてゴア、排泄、性を混ぜたバンド全体のキャラクターである。
よって、GUTを音源だけ聞いて「これはゴアグラインドではなくポルノグラインドだ」と判別できなくても不思議ではない。GUTのPornogrind性は固有のギターリフやリズムだけにあるのではなく、曲名、作品名、ジャケット、パッケージ、ステージネーム、サンプルなど、音楽とその周囲にある表現を組み合わせた作品世界全体に強く現れている。
GUT自身は最初から「ポルノグラインド」を名乗っていたのか
現在ではGUTが「ポルノグラインドの創始者」「ポルノグラインドの父」と紹介されることが多い。しかし、GUTが1991年の活動開始時から自分たちをPornogrindという新ジャンルだと明確に名乗っていた証拠は確認できない。
2017年のNo Te Calles Zineのインタビューでメンバーは、1995年に解散したあと、自分たちが突然「porngrind masters」として扱われるようになり、カルト的な評価が始まったと振り返っている。
また、2025年のGood Guys Go Grindのインタビューでも、GUTの始まりはもっと偶発的に説明されている。Pyogenesisのデモ録音後にスタジオ時間が余っていたため、その時間を使って録音を始め、それが『Drowning in Female Excrements』になったという。また初期の楽曲について、大部分が即興だったと振り返っている。
よって、「GUTが1991年にPornogrindというジャンルを設計し、命名した」と説明するのは危険である。より正確には、GUTが1990年代前半から中盤に展開した性的で露悪的な作品世界が、後世にPornogrindの典型として認識されるようになったと考えるべきだろう。「Pornogrind」という言葉を誰が最初に使ったのかについても、現在確認できる資料からは確定できない。
ポルノグラインドに固有の「音」はあるのか
結論から言えば、ゴアグラインドと明確に切り分けられる決定的な固有サウンドを定義するのは難しい。
GUTや後のCock and Ball Tortureなどを聴くと、ピッチシフトされた極端な低音ボーカル、ダウンチューニング、単純なリフ、中速の反復、跳ねるようなグルーヴ、ブラストビートとの切り替えなどが目立つ。しかし、これらはポルノグラインド専用の技法ではなく、ゴアグラインドやデスグラインド周辺にも存在する。これらは「ポルノグラインドの条件」ではなく、「重要バンドに頻繁に見られる音楽的傾向」である。
Cock and Ball Torture|グルーヴを強調したスタイル
ドイツのCock and Ball Tortureは、ポルノグラインドの音楽面を考えるうえで重要である。GUTより後の世代にあたる彼らは、ブラスト一辺倒ではなく、低く単純なリフを反復し、中速で身体を揺らすようなグルーヴを強く前面に出した。
Cock and Ball Tortureは、後世に「低いガーグルと跳ねる中速リフ」というポルノグラインドのサウンド・イメージを代表するバンドのひとつとなった。ただし、それをジャンル全体の定義へ逆算してはいけない。
Tobias Augustinへの2009年のインタビューでは、後続バンドがイントロやインターネット上のポルノ画像を互いにコピーするようになったことへの苛立ちを語っている。またライブでは固定された歌詞を使わず、その場で即興的な話をしたり、単にガーグルを発したりすることもあったと説明している。
ここからも、曲名やイメージでは性的な言葉が大量に使われていても、実際に聞こえるボーカルの言語内容がジャンルの中心とは限らないことが分かる。
Rompeprop|ゴアグラインドを「パーティー」に変える
オランダのRompepropも、この周辺スタイルを理解するうえで重要である。ただしRompeprop本人は、自分たちを主にゴアグラインドとして語っている。2002年のSteven Smegmaへのインタビューでは、ピッチシフトされたガーグルとグルーヴィーなゴアグラインドへの愛好を語る一方、バンドでは楽しさや観客との交流を重視している。
ここではGUTやCock and Ball Torture周辺にも見られるピッチシフトされた低音、中速グルーヴ、悪趣味なユーモア、過剰なキャラクター、観客と一緒に楽しむライブといった要素が、よりパーティー的な方向へ展開している。
したがってRompepropを厳密に「純粋なポルノグラインド」と固定するより、ポルノグラインドとグルーヴ型ゴアグラインドが重なる周辺領域の重要バンドとして見る方が適切である。
ポルノグラインドの歴史
ゴアグラインドの身体表現が前史になる
ポルノグラインドの重要な前史には、Carcassなどによって強く可視化されたゴアグラインドがある。ゴアグラインドは、普通なら隠される身体内部を作品の中心へ持ち込み、血液、臓器、腐敗、病気、死体、解剖などを題材にした。
ポルノグラインドは、この身体への露悪的な関心と多くの音楽的語彙を共有しながら、性器、性行為、性的な侮辱などを前面に出すようになる。ただし、これはCarcassからGUTへ一直線に継承されたという意味ではない。
1980年代末〜1990年代初頭のアメリカでは、Meat Shitsのように性的ショック表現とnoise/grindを結びつける別の動きも存在した。Meat Shitsは1987年に活動を開始したとされ、後のLee BarronによるPorngrind研究でも代表例のひとつとして扱われている。そのため、ポルノグラインド史に単独の「発明者」を設定しすぎない方がよい。
1991〜1995年|GUTが後世の基準点になる
1991年の『Drowning in Female Excrements』から始まったGUTでは、ゴアや病理の題材と性的な表現が早い段階から併存していた。1992年以降の7インチやスプリットでは、性的なリリース名、曲名、ステージネームがさらに前面へ出て、1995年の『Odour of Torture』ではその作品世界がまとまった形で提示される。
後世から見ると、この時期のGUTが「ポルノグラインドとは何か」を考える最大の基準点のひとつになった。ただし本人の証言を見る限り、最初からジャンル創設を意識していたわけではない。「ジャンルを発明した」というより、後からPornogrindという名称がGUTの表現を説明する言葉として定着していったと見る方が資料に合っている。
1990年代後半〜2000年代|グルーヴ型のイメージが強まる
GUTの時点ですでに性的な主題と一定のグルーヴ感は併存していた。その後Cock and Ball Tortureなどでは、中速グルーヴ、極端に低いボーカル、単純な反復リフがより目立つようになる。
この結果、性的な題材だけでなく、「低いガーグルと中速の反復」という一定のサウンド・イメージもポルノグラインドと強く関連づけられるようになった。ただし、その音楽語彙自体はゴアグラインドとも共有されているため、ジャンルの必須条件とは言えない。
ポルノグラインドの代表的なバンド
GUT
最重要の歴史的基準点である。1991年の『Drowning in Female Excrements』から始まり、1992年以降の7インチ群、1995年の『Odour of Torture』によって、性的な作品名、曲名、ステージネーム、ジャケット・イメージをゴア/グラインドと強く結びつけた。
Cock and Ball Torture
中速グルーヴと極端な低音ボーカルを前面に出した重要バンドであり、後世に「ポルノグラインドらしい音」として想起されるスタイルを理解するうえで欠かせない。2009年のTobias Augustinへのインタビューからは、固定歌詞を必ずしも使わないライブ・スタイルや、後続によるイメージのコピーへの批判も確認できる。
Meat Shits
アメリカの別系統の重要例である。MusicBrainzでは1987年結成と記録されている。性的ショック表現とnoise/grindを早い時期から結びつけており、Lee BarronによるPorngrind研究でも代表例のひとつとして扱われている。
Lividity
アメリカの極端な性的・暴力的表現を考えるうえで重要なバンドである。Dave Kiblerへの2019年のインタビューでは、歌詞に強い憎悪があることや、ポルノ視聴と過去の人間関係から生じた感情や空想を創作上の放出として扱っていることを本人が語っている。
Rompeprop
本人の自己認識はゴアグラインド寄りだが、グルーヴ、低音ボーカル、下品なユーモア、パーティー的ライブという点でポルノグラインド周辺史と強く接続する。2002年の本人インタビューでも、自分たちの音楽をゴアグラインドとして説明しながら、楽しさや観客との交流を重視している。
なぜ性やポルノを題材にしたのか
すべてのバンドへ共通する一つの理由があるわけではない。少なくともGUTについては、壮大な政治理論から始まったわけではない。
2025年の本人インタビューでは、初期GUTはより汚く、より下品で、遊びとして始めたサイドプロジェクトだったことが語られている。また、初期曲の大部分が即興だったとも振り返っている。ここにはショック、悪趣味、ブラックユーモア、性的タブー、ゴア表現のさらなる過剰化などが重なっていたと考えられる。
したがってGUTに対して、「性的身体を批評するためにPornogrindを始めた」といった理論を後付けするべきではない。本人の証言に最も近いのは、ゴア/グラインドの悪趣味を、性的な方向へさらに押し広げて遊んだという理解である。
ポルノグラインドは「ただの下ネタ」なのか
ここはバンドによってかなり違う。GUTの初期活動には、悪ふざけや即興性が強かったことが本人の証言から分かる。Cock and Ball Tortureではライブで固定歌詞を使わず、即興の話やガーグルで演奏することもあり、Rompepropもライブにおけるユーモアや観客との楽しさを重視している。そのため、すべての曲に深刻な思想的意味を読み込む必要はない。
一方、シーン全体を「無害な悪ふざけ」と説明することもできない。LividityのDave Kiblerは、自身の歌詞には強い憎悪があり、ポルノ視聴や過去の人間関係などから生じた感情や暴力的な空想を創作上の放出として扱っていると説明している。また、ショックや痛みをバンドの表現と結びつけて語っている。
GUTの即興的な悪ふざけ、Rompepropのエンターテインメント性、Lividityの憎悪や空想の放出を、同じ一つの動機としてまとめることはできない。「全部冗談」でも「全部本気」でもなく、バンドごとに表現の動機が違うのである。
さらにLee Barronの論文Dworkin’s Nightmare: Porngrind as the Sound of Feminist Fearsは、Porngrindに反復される性的露骨さ、性暴力、ミソジニーに注目し、Andrea Dworkinの反ポルノ論と比較している。演者が冗談として作ったことと、その表現が社会的にどのような意味を持つかは別の問題である。
性的表現をどう考えるべきか
ここでフェミニスト・セックス・ウォーズを参照することもできる。ただし、Andrea Dworkin、Catharine MacKinnon、Gayle Rubinらがポルノグラインドを論じたわけではない。主に1970年代末から1980年代のアメリカで展開されたポルノ、性的表現、検閲をめぐる議論を、ポルノグラインドを見るための外部的な比較枠組みとして使うのである。
DworkinやMacKinnonの反ポルノ・フェミニズムは、ポルノを単なる不快な画像としてではなく、女性の従属や性的暴力と結びついた表現として批判した。一方、Gayle Rubinなどの反検閲/セックス・ポジティブ側は、社会的な嫌悪感を理由として性的表現を一括して規制することが、性的少数者や成人の合意した性的文化まで抑圧する危険性を問題にした。Rubinの“Thinking Sex”は、この議論を考えるうえで重要な文献のひとつである。
ポルノグラインドについても、「下品だから悪い」というだけでは十分な批評にならない。同時に、「冗談だから何を表現しても無意味である」ということにもならない。作品の内容、演者の意図、現実の害、フィクション、成人間の合意、観客の受け取り方を分けて考える必要がある。
Rosemary Overellのグラインドコア研究“‘[I] Hate Girls and Emo[tion]s’: Negotiating Masculinity in Grindcore Music”も、シーン内にミソジニー的な表現が存在することを認めながら、ライブで共有される身体的なbrutalityの経験や帰属感を、表現内容だけには還元できないと論じている。
Jeff Walkerが批判した「暴力の性的化」
ここでもう一度ゴアグラインドへ戻ると興味深い。CarcassのJeff Walkerは2014年のVICEインタビューで、Carcass以後の一部の表現について、暴力を性的な方向へ変えたり、ただ気持ち悪くすること自体を目的化した例があるという趣旨で批判している。彼はCarcass自身には考えやユーモアがあったと説明している。
WalkerがPornogrindというジャンル全体を名指しして批判したわけではない。しかしこの発言は、ゴア表現から性的ショック表現へ進むことが、単純な「より過激な進化」ではなかったことを示している。ゴアグラインドからポルノグラインドへ題材が変わったとき、身体表現の意味も変わったのである。
ポルノグラインドは独立した音楽ジャンルなのか
結論としては、完全に独立したジャンルと考えるには境界がかなり曖昧である。
GUTやCock and Ball Tortureを聞けば、低い声、単純なリフ、中速のグルーヴ、性的な曲名、露悪的なジャケットといった一定の共通イメージは確かに存在する。しかし、音楽的な部分だけを取り出せば、その多くはゴアグラインドにも存在する。
そのためポルノグラインドは、ゴアグラインドから完全に独立したサウンドというより、ゴア/グラインドの音楽的語彙に、性的な主題・言葉・イメージを強く結びつけたマイクロジャンルと考えると理解しやすい。さらにGUTやCock and Ball Tortureなどで目立つ中速グルーヴや低音ボーカルが、ジャンルに特徴的なサウンド・イメージを形成していると整理すればよい。
現在のポルノグラインド
ポルノグラインドは完全な過去の音楽ではない。GUTは2025年のインタビューで、新しい楽曲を制作中であると説明している。またParty.San Metal Open Airの2026年公式ページにもGUTが掲載されている。
興味深いのは、Party.Sanが2026年のGUTをGoregrind / Grindcoreと分類している点である。歴史的にはPornogrindの代表格として語られるGUTでさえ、現在の公式フェス分類では別のジャンル名が使われている。これはPornogrindとGoregrindの境界が固定的ではないことを示す一例といえる。
一方で、「Pornogrind」という名称とゴアグラインドとの境界を数量的に示す統計は存在しない。そのため、ポルノグラインドが消滅した、あるいは現在世界的なリバイバルが起きていると断定することはできない。
2026年現在言えるのは、GUTを含む歴史的なバンドの活動が続き、性的な題材とゴア/グラインドの音楽を結びつけた表現も残っているということまでである。
よくある質問
ポルノグラインドとゴアグラインドは音だけで区別できますか?
必ずしもできない。両者はブラストビート、低音ボーカル、ピッチシフト、ダウンチューニング、中速グルーヴなど多くの音楽的特徴を共有しており、曲名、ジャケット、サンプル、バンド自身の説明などを含めて分類される場合が多い。
ポルノグラインドでは必ず喘ぎ声などのサンプルを使いますか?
使わないバンドや作品もある。性的な音声サンプルは非常に分かりやすい「ポルノ要素」だが、ジャンルの必須条件ではない。GUTの場合、初期のPornogrind性を最もはっきり確認できるのは、むしろ作品名、曲名、ステージネーム、ジャケットやパッケージのイメージである。
GUTがポルノグラインドを発明したのですか?
GUTは歴史上最も重要な基準点のひとつである。ただし、GUT自身が1991年からPornogrindというジャンル名を使っていた証拠や、この名称を発明した証拠は確認できない。本人も2017年のインタビューで、1995年の解散後に「porngrind masters」と見なされるようになったと振り返っている。
初めて聴くなら何から入ればいいですか?
歴史を理解するなら、まずGUT『Odour of Torture』が分かりやすい。その際、音だけを聞くのではなく、曲名、ジャケット、作品全体のイメージも一緒に見ると「なぜこれがPornogrindと呼ばれるのか」が理解しやすい。その後Cock and Ball Tortureを聞けば、中速グルーヴや低音ボーカルがより目立つスタイルとの違いも見えてくる。
まとめ
ポルノグラインドとは、単純に「エロい歌詞のゴアグラインド」でも「遅いゴアグラインド」でもない。また、ポルノグラインドだけに存在する特別なギター奏法やリズムがあるわけでもない。
最も重要なのは、ゴアグラインドやグラインドコアの音楽に、性器、性行為、精液、性的侮辱などを扱う作品名、曲名、ジャケット、ステージネーム、サンプルといった表現を組み合わせたことである。そのことを最も分かりやすく示したのがGUTだった。
1991年の『Drowning in Female Excrements』ではまだゴア/デスメタル的な病理・死体表現との連続性が強かったが、1992年以降は『Spermany’s Most Wanted』『Hyper-Intestinal Vulva Desecration』『Twat Enema』『Fistful of Sperm』『Pussyfied / Assyfied』など、性的な言葉がリリース名そのものへ広がっていった。曲名にもSperminator、Intestinal Cumshot、Dead Girls Don’t Say No、Vagina Berserker、Pussy Grinder、Anal Sushiなどが並び、メンバー自身もOrganic Masturbator of 1000 Splatter WhoresやSpermsoaked Consumer of Pussy Barbecueといった名前を使った。さらに『Odour of Torture』のジャケットや、『Pussyfied / Assyfied』にコンドームを付属させるパッケージまで含め、性的なイメージは音源の外側にも徹底されていた。
ここまで見ると、GUTの「ポルノ」がどこにあるのかは明確である。それは音だけに存在するのではなく、音、言葉、ジャケット、パッケージ、人物名、悪趣味なユーモアまでを含んだ作品世界全体に存在する。
その一方、GUTの時点でもグルーヴなどの音楽的傾向は存在し、後のCock and Ball Tortureなどでは中速の反復や極端な低音ボーカルがさらに目立つようになった。しかし、それらはあくまで頻出する傾向であり、ジャンルの絶対条件ではない。
したがってポルノグラインドは、ゴア/グラインドの音楽的語彙に、性的な主題とイメージを強く結びつけたマイクロジャンルとして理解するのが最も分かりやすい。
この記事の調査について
本記事では、GUT、Cock and Ball Torture、Rompeprop、Lividityなどの当事者インタビュー、GUTの作品・ディスコグラフィー資料、Porngrindおよびgrindcoreを対象とした研究を照合した。
特に「GUTがPornogrindという言葉を発明した」「GUTが1991年からPornogrindを自称していた」「中速グルーヴはPornogrindだけの特徴である」「ピッチシフト声があればPornogrindである」「すべてのPornogrindは冗談である」「現在Pornogrindがブームまたは消滅状態にある」といった断定は、確認できる資料の範囲を超えるため採用していない。
また、作品名やステージネームに付した日本語は理解を補助するための便宜的な訳であり、原題の正式な日本語訳ではない。GUTには意図的な造語や駄洒落が多いため、直訳困難なものについては無理に意味を確定していない。
フェミニスト理論についても、GUTなどのバンドの制作動機を説明するためではなく、性的・暴力的な表現を外部から分析するための比較枠組みとして使用している。
GUT・当事者資料
- GUT — Good Guys Go Grind, 2025
- GUT — No Te Calles Zine, 2017
- GUT『Drowning in Female Excrements』
- GUT『Spermany’s Most Wanted』
- GUT『Hyper-Intestinal Vulva Desecration』
- GUT『Pussyfied / Assyfied』
- GUT『Twat Enema』split
- GUT『Fistful of Sperm』split
- GUT『The Singles Collection』— 公式Bandcamp
- GUT『Odour of Torture』
- GUT — メンバー/ステージネーム
関連バンド・当事者資料
- Cock and Ball Torture / Tobias Augustin — 2009 interview
- Rompeprop / Steven Smegma — Brutalism, 2002
- Lividity / Dave Kibler — Brutalism, 2019
- Jeff Walker / Carcass — VICE, 2014
ディスコグラフィー・現況確認
研究資料
- Lee Barron, “Dworkin’s Nightmare: Porngrind as the Sound of Feminist Fears”, Popular Music History 6(1–2), 2012.
- Rosemary Overell, “‘[I] Hate Girls and Emo[tion]s’: Negotiating Masculinity in Grindcore Music”, Popular Music History 6(1–2), 2012.
- Rosemary Overell, Affective Intensities in Extreme Music Scenes: Cases from Australia and Japan, Palgrave Macmillan, 2014.
- Michael Skeech, The Biology of Heavy Metal: Evolutionary Links Between Science and Culture, PhD thesis, University of Salford, 2022.
- Keith Kahn-Harris, Extreme Metal: Music and Culture on the Edge, Berg, 2007.
性的表現・フェミニズムをめぐる参考文献
- Andrea Dworkin, Pornography: Men Possessing Women, 1981.
- Catharine A. MacKinnon, Feminism Unmodified, 1987.
- Gayle S. Rubin, “Thinking Sex”, 1984.
- Carole S. Vance (ed.), Pleasure and Danger, 1984.